HP ZGX Nano G1n 調査

128GB 統合メモリの AI ワークステーションが、VRAM 4GB という現在の制約をどう変えるか
📅 作成: 2026-08-25 / 更新: 2026-08-25

目次

  1. 製品概要とキャンペーン
  2. スペックの読み方 — 容量と帯域は別物
  3. 何が動くようになるか
  4. 他の選択肢との比較
  5. 移行時に効いてくる制約
  6. 判断材料の整理

この文書の位置づけ

ローカルLLM 実行計画の実測で、本PCの制約はすべて VRAM 4GB に集約されることが分かった。 9Bクラスで 8 tok/s、20B MoE で 5.9 tok/s、コンテキストは 8192 が上限——いずれもここから来ている。 この制約を金銭で解決する選択肢として、HP のキャンペーン製品を検討する。 購入を勧めるものではなく、判断材料を並べる目的の文書である。

製品概要とキャンペーン

HP ZGX Nano G1n AI Station

項目内容
プロセッサNVIDIA GB10 Grace Blackwell Superchip(Arm Cortex-X925 ×10 + Cortex-A725 ×10)
メモリ128GB LPDDR5x(オンボード・CPUとGPUで共有する統合メモリ)
ストレージ4TB PCIe 4.0 x4 NVMe SSD
OSNVIDIA DGX OS 7(Ubuntu ベース)
AI 演算性能最大 1,000 TOPS(低精度演算での値)
サイズ150 × 150 × 51 mm(手のひらサイズ)
保証1年(センドバック)

キャンペーン

項目金額・条件
HP希望販売価格¥2,125,200(税込)〜
キャンペーン価格¥998,800(税込)
割引▲¥1,126,400(約 53% オフ)
台数500台限定(予定数達成で終了)

想定用途

メーカーが挙げているのはエッジAI、コンピュータービジョン、AIモデルの開発・プロトタイピング、機械学習推論。 個人が大きなモデルをローカルで動かす用途は、想定の中心ではないが、 128GB という容量はまさにそこで効いてくる。

「最大2,000億〜4,050億パラメータ対応」という表記の読み方に注意。 この系統のマシンでは、単体で 200B 級、2台連結で 405B 級という説明がなされる。 ただしこれは「メモリに載る」という意味であって、「実用的な速度で動く」という意味ではない。 なぜそうなるかは次章で扱う。

スペックの読み方 — 容量と帯域は別物

生成速度を決めるのは帯域

計画書 第10章で確認したとおり、LLM の生成速度は1トークンごとにモデル全体の重みをメモリから読み出す時間で決まる。 つまり効くのは容量ではなくメモリ帯域である。4Bクラスが系列を問わず 56 tok/s で頭打ちになったのも、これが理由だった。

現環境との対比

メモリ容量 — 32倍になる 現環境 4GB 4 GB ZGX 128GB 128 GB(統合メモリ) メモリ帯域 — 1.4倍にしかならない 現環境 約 192 GB/s ZGX 約 273 GB/s(公称値からの概算) → 同じサイズのモデルなら、速度は1.4倍程度にしかならない。効くのは「載る量」の方
項目現環境
RTX 3050 Ti Laptop
ZGX Nano G1n倍率
使えるメモリ3.21 GB(実測)約 120 GB約 37倍
メモリ帯域約 192 GB/s約 273 GB/s約 1.4倍
4Bクラスの速度56.5 tok/s(実測)推定 70〜80 tok/s約 1.3倍
今使っている 4B モデルは、ほとんど速くならない。 100万円を投じて 56 → 70 tok/s では割に合わない。 この製品の価値は「速くなること」ではなく「今まったく動かないものが動くこと」にある。 判断はその一点を軸にすべきで、既存モデルの高速化を期待すると外す。

帯域値の出どころについて

上記の帯域は公称スペックからの概算である。現環境の 192 GB/s も理論値で、 計画書の実測(56.5 tok/s)から逆算すると実効効率は7割程度。ZGX 側も同様の効率と仮定して推定している。 実機で測っていない値

何が動くようになるか

モデルサイズ別の見通し

帯域 273 GB/s、実効効率7割と仮定した粗い試算。密モデルは「サイズ÷帯域」でおおよそ決まる

モデルQ4 のサイズ現環境ZGX(推定)
Qwen3-4B(密)2.3 GB56.5 tok/s70〜80 tok/s
gemma-4-E4B5.0 GB45.2 tok/s55〜65 tok/s
Qwen3.5-9B(密)5.2 GB8.1 tok/s30〜35 tok/s
gemma-4-12B(密)6.9 GB未測定(低速)25〜28 tok/s
Qwen2.5-Coder-14B(密)8.4 GB未測定(低速)20〜23 tok/s
gpt-oss-20b(MoE)11.3 GB5.9 tok/s50〜70 tok/s
Qwen3-30B-A3B(MoE)18 GB動かない50〜70 tok/s
70B クラス(密)約 40 GB動かない4〜5 tok/s
200B クラス(密)約 110 GB動かない1.5〜2 tok/s

最大の恩恵は MoE にある

表で突出しているのは MoE の行である。計画書 第7章で整理したとおり、 MoE は総パラメータをメモリに置く必要がある一方、毎トークン読むのは active な一部だけ

モデル総 / active現環境で起きていることZGX なら
gpt-oss-20b21B / 3.6B11.3 GB が RAM 15.8 GB を圧迫し、エキスパートをCPUに逃がして 5.9 tok/s全部がメモリに収まり、読むのは 3.6B 相当だけ
Qwen3-30B-A3B30B / 3BQ4 の 18 GB が RAM に載らず起動できない余裕をもって収まる

計画書 第7章では「Qwen3-30B-A3B を IQ2_M(約11GB)まで落とせば RAM 16GB に収まるかもしれない」という 苦しい検討をしていたが、128GB あれば Q4 のまま置ける。品質を落とす必要がなくなる。

「200B が動く」を額面どおり受け取らない。 密の 200B クラスは1.5〜2 tok/s の見込みで、これは計画書で「対話には遅すぎる」と切り捨てた 12Bクラス(2〜3 tok/s)より遅い。載ることと使えることは別である。 実用になるのは MoE か、30B 程度までの密モデルまでと見るのが妥当。

他の選択肢との比較

同価格帯の代替

選択肢使えるメモリ帯域(概算)価格帯性格
HP ZGX Nano G1n約 120 GB約 273 GB/s約 100 万円
(キャンペーン)
容量で殴る。大きいモデルが載る。速度は控えめ
RTX 5090 搭載PC32 GB約 1,790 GB/s60〜90 万円速度で殴る。32GB に収まる範囲なら圧倒的に速い
Mac Studio
(M4 Max 128GB)
約 120 GB約 546 GB/s70〜90 万円容量と帯域のバランスが良い。帯域は ZGX の2倍
RTX 3090 中古 ×248 GB約 936 GB/s30〜40 万円費用対効果は高いが、消費電力と設置の手間が大きい
現状維持3.21 GB約 192 GB/s0 円4Bクラスなら 56 tok/s で不足はない

この表から読めること

Mac Studio が正面の競合になる

同じ 128GB クラスで、帯域は Mac の方が約2倍。同じモデルを動かすなら Mac の方が速い。 価格帯も近い。ZGX が優位に立つのは以下の点になる。

逆に推論だけが目的なら、Mac Studio の方が素直に速い可能性が高い。

RTX 5090 とは用途が分かれる

32GB に収まるモデル(30B 密の Q4、70B の低ビット量子化まで)なら、5090 は ZGX の6倍以上の帯域で圧倒する。 32GB を超えるかどうかが分水嶺で、超えないなら 5090、超えるなら ZGX という切り分けになる。

現状維持という選択肢を最初に潰しておく必要がある。 計画書の結論では、Qwen3-4B が 56.5 tok/s、gemma-4-E4B が 45.2 tok/s で、 日常的な対話とコード生成には足りている。 100万円の判断は「今のモデルで何が不足しているか」を具体化してからで遅くない。

移行時に効いてくる制約

Arm アーキテクチャである

GB10 の CPU 部は Arm(Cortex-X925 / A725)。x86 用のバイナリは動かない

今使っているもの移行時にどうなるか
llama-b10612-bin-win-cuda-12.4-x64使えないWindows x64 版。Linux arm64 版を取り直す
scripts\*.cmd使えないシェルスクリプトに書き直す
GGUF モデル本体そのまま使えるアーキテクチャ非依存の形式
LM Studio要確認Linux arm64 版の提供状況次第
計画書の知見
-ngl / --n-cpu-moe の考え方)
前提が変わる統合メモリなので「GPUに何層載せるか」という発想自体が薄れる

OS が変わる

DGX OS 7 は Ubuntu ベース。Windows 環境ではなくなるため、 既存の作業フロー(PowerShell スクリプト、Windows 上の他ツールとの連携)はそのまま持ち込めない。 LAN 越しにサーバとして使い、手元の Windows から API で叩く構成が現実的と思われる。

統合メモリの意味が変わる

現環境では「VRAM 4GB に何を載せるか」が計画の中心だったが、 統合メモリでは CPU と GPU が同じ 128GB を共有する。 計画書 第6章の VRAM 配分の議論は、そのままの形では引き継がれない。 一方で「帯域が速度を決める」という原則は変わらないため、第10章の分析はそのまま通用する。

確認できていない点

判断材料の整理

買う理由になるもの

動機内容
強いMoE を本気で使うQwen3-30B-A3B クラスが Q4 のまま 50〜70 tok/s で動く。現環境では起動すらできない領域
強い学習・ファインチューニング推論だけなら他の選択肢もあるが、CUDA での学習となると 128GB は大きな武器になる
長いコンテキスト現在 8192 が上限。統合メモリなら KV キャッシュの制約がほぼ消える
価格53% オフは大きい。ただし 500台限定で、判断を急がされる構造でもある

買わない理由になるもの

懸念内容
強い今のモデルは速くならない常用している 4B は 56 → 70 tok/s 程度。100万円の対価としては薄い
強い用途が未確定計画書 第9章の時点で「常用する用途」は未定のまま。何に使うかが決まる前の投資になる
帯域では Mac に劣る推論用途に絞れば Mac Studio の方が約2倍速い。同価格帯
環境の作り直しArm + Linux。今回組んだ Windows の環境とスクリプトは引き継げない

判断を進めるなら

本書で結論は出さない。判断するとしたら、順序は次のようになる。

  1. 今の環境で足りない場面を具体的に挙げる — 「4B では答えが不正確」「20B を待てない」など。 計画書 第10章の品質評価では、Qwen3-4B の誤答と gemma-4-E4B の正答という差が既に出ている。 E4B の 45 tok/s で足りるなら、そもそも投資の必要がない
  2. 用途が推論だけか、学習も含むかを決める — 推論だけなら Mac Studio が対抗になる
  3. 32GB で足りるかを見極める — 足りるなら RTX 5090 の方が速く、安い
  4. そのうえで 128GB が要るなら、キャンペーン価格は妥当な水準
期限付きの割引は、判断の順序を狂わせやすい。 500台限定という条件は「今決めないと損」という圧力を作るが、 上の1番——今の環境の何が不足しているか——が空欄のままでは、 どの選択肢が正解かを決めようがない。まずそこを埋めるのが先で、 埋まらないなら「今は買わない」が答えになる。

参考資料

一次情報

関連する自プロジェクトの文書

価格と在庫は 2026-08-25 時点の記載に基づく。 500台限定のキャンペーンであり、終了後は定価 ¥2,125,200 に戻る。 判断の際は必ず上記のページで現在の条件を確認すること。
性能の数値はすべて推定である。 第2章のメモリ帯域(約 273 GB/s)、第3章のモデル別 tok/s、第4章の他機種の帯域は、 いずれも公称スペックからの計算であり実機で測っていない。 現環境の実測値(192 GB/s に対し 56.5 tok/s)から逆算した実効効率7割を、他機種にも当てはめている。