ハードウェア選定の判断材料

VRAM 4GB という現在の制約を、どのハードウェアで、いくらで解決できるか
📅 作成: 2026-08-25 / 更新: 2026-09-30

目次

  1. 製品概要とキャンペーン
  2. スペックの読み方 — 容量と帯域は別物
  3. 何が動くようになるか
  4. 他の選択肢との比較
  5. 移行時に効いてくる制約
  6. 判断材料の整理

この文書の位置づけ

ローカルLLM 実行計画の実測で、本PCの制約はすべて VRAM 4GB に集約されることが分かった。 9Bクラスで 8 tok/s、20B MoE で 5.9 tok/s、コンテキストは 8192 が上限——いずれもここから来ている。 この制約を金銭で解決する選択肢として、128GB 統合メモリの HP ZGX Nano G1n を軸に、 GPU(RTX 30 / 50 系・RTX PRO)、Mac Studio、NVIDIA DGX Spark を価格とあわせて比べる。 購入を勧めるものではなく、判断材料を並べる目的の文書である。

本書の「現環境」は、RAM 16GB のときの実測に基づく。 その後 RAM を 32GB に増設し、画面表示を内蔵GPU に任せたところ、9B は 14.6 tok/s、20B MoE は 19.0 tok/s、 コンテキストは KV を q8_0 にすれば 16384 まで使えるようになった。Qwen3-30B-A3B も RAM には載る。 ZGX との差は本書の比較より縮まっている。

製品概要とキャンペーン

HP ZGX Nano G1n AI Station

項目内容
プロセッサNVIDIA GB10 Grace Blackwell Superchip(Arm Cortex-X925 ×10 + Cortex-A725 ×10)
メモリ128GB LPDDR5x(オンボード・CPUとGPUで共有する統合メモリ)
ストレージ4TB PCIe 4.0 x4 NVMe SSD
OSNVIDIA DGX OS 7(Ubuntu ベース)
AI 演算性能最大 1,000 TOPS(低精度演算での値)
サイズ150 × 150 × 51 mm(手のひらサイズ)
保証1年(センドバック)

キャンペーン

項目金額・条件
HP希望販売価格¥2,125,200(税込)〜
キャンペーン価格¥1,098,900(税込)
割引▲¥1,026,300(約 48% オフ)
期間2026-09-11 〜 2026-09-30
価格.com 限定モデル¥1,097,800 + 送料 ¥1,650(HP 直販)

想定用途

メーカーが挙げているのはエッジAI、コンピュータービジョン、AIモデルの開発・プロトタイピング、機械学習推論。 個人が大きなモデルをローカルで動かす用途は、想定の中心ではないが、 128GB という容量はまさにそこで効いてくる。

「最大2,000億〜4,050億パラメータ対応」という表記の読み方に注意。 この系統のマシンでは、単体で 200B 級、2台連結で 405B 級という説明がなされる。 ただしこれは「メモリに載る」という意味であって、「実用的な速度で動く」という意味ではない。 なぜそうなるかは次章で扱う。

スペックの読み方 — 容量と帯域は別物

生成速度を決めるのは帯域

計画書 第10章で確認したとおり、LLM の生成速度は1トークンごとにモデル全体の重みをメモリから読み出す時間で決まる。 つまり効くのは容量ではなくメモリ帯域である。4Bクラスが系列を問わず 56 tok/s で頭打ちになったのも、これが理由だった。

現環境との対比

メモリ容量 — 32倍になる 現環境 4GB 4 GB ZGX 128GB 128 GB(統合メモリ) メモリ帯域 — 1.4倍にしかならない 現環境 約 192 GB/s ZGX 約 273 GB/s(公称値からの概算) → 同じサイズのモデルなら、速度は1.4倍程度にしかならない。効くのは「載る量」の方
項目現環境
RTX 3050 Ti Laptop
ZGX Nano G1n倍率
使えるメモリ3.21 GB(実測)約 120 GB約 37倍
メモリ帯域約 192 GB/s約 273 GB/s約 1.4倍
4Bクラスの速度56.5 tok/s(実測)推定 70〜80 tok/s約 1.3倍
今使っている 4B モデルは、ほとんど速くならない。 110万円を投じて 56 → 70 tok/s では割に合わない。 この製品の価値は「速くなること」ではなく「今まったく動かないものが動くこと」にある。 判断はその一点を軸にすべきで、既存モデルの高速化を期待すると外す。

帯域値の出どころについて

上記の帯域は公称スペックからの概算である。現環境の 192 GB/s も理論値で、 計画書の実測(56.5 tok/s)から逆算すると実効効率は7割程度。ZGX 側も同様の効率と仮定して推定している。 実機で測っていない値

何が動くようになるか

モデルサイズ別の見通し

帯域 273 GB/s、実効効率7割と仮定した粗い試算。密モデルは「サイズ÷帯域」でおおよそ決まる。

モデルQ4 のサイズ現環境
RAM 16GB
現環境
RAM 32GB
ZGX(推定)
Qwen3-4B(密)2.3 GB56.5 tok/s58.9 tok/s70〜80 tok/s
gemma-4-E4B5.0 GB45.2 tok/s未測定55〜65 tok/s
Qwen3.5-9B(密)5.2 GB8.1 tok/s14.6 tok/s30〜35 tok/s
gemma-4-12B(密)6.9 GB未測定(低速)未測定25〜28 tok/s
Qwen2.5-Coder-14B(密)8.4 GB未測定(低速)未測定20〜23 tok/s
gpt-oss-20b(MoE)11.3 GB5.9 tok/s19.0 tok/s50〜70 tok/s
Qwen3-30B-A3B(MoE)18 GB動かない動く(UD-Q4_K_XL・16.5 GB)・生成速度は未測定50〜70 tok/s
70B クラス(密)約 40 GB動かない動かない4〜5 tok/s
200B クラス(密)約 110 GB動かない動かない1.5〜2 tok/s

最大の恩恵は MoE にある

表で突出しているのは MoE の行である。計画書 第7章で整理したとおり、 MoE は総パラメータをメモリに置く必要がある一方、毎トークン読むのは active な一部だけ。

モデル総 / active現環境で起きていることZGX なら
gpt-oss-20b21B / 3.6BRAM 16GB 時は、11.3 GB が RAM 15.8 GB を圧迫し、エキスパートをCPUに逃がして 5.9 tok/s。32GB に増設後は 19.0 tok/s全部がメモリに収まり、読むのは 3.6B 相当だけ
Qwen3-30B-A3B30B / 3BQ4 の 18 GB が RAM に載らず起動できない余裕をもって収まる

計画書 第7章では「Qwen3-30B-A3B を IQ2_M(約11GB)まで落とせば RAM 16GB に収まるかもしれない」という 苦しい検討をしていたが、128GB あれば Q4 のまま置ける。品質を落とす必要がなくなる。

「200B が動く」を額面どおり受け取らない。 密の 200B クラスは1.5〜2 tok/s の見込みで、これは計画書で「対話には遅すぎる」と切り捨てた 12Bクラス(2〜3 tok/s)より遅い。載ることと使えることは別である。 実用になるのは MoE か、30B 程度までの密モデルまでと見るのが妥当。

他の選択肢との比較

選択肢と価格(2026-09-27 時点)

選択肢使えるメモリ帯域(公称)価格性格
HP ZGX Nano G1n約 120 GB(統合)約 273 GB/s¥1,098,900
(9/30 まで)
容量で殴る。大きいモデルが載る。速度は控えめ
NVIDIA DGX Spark約 120 GB(統合)約 273 GB/s¥1,045,000ZGX と同じ GB10 を積む NVIDIA 純正機。ZGX より約5万円安い
Mac Studio
(M5 Max・18/40コア・128GB・1TB)
約 120 GB(統合)約 614 GB/s¥941,800容量と帯域のバランスが良い。帯域は ZGX の約2.2倍で、約16万円安い
RTX PRO 6000 Blackwell Max-Q96 GB約 1,790 GB/s¥2,593,800〜1枚で 96GB。価格は桁が違う
RTX 509032 GB約 1,790 GB/s¥864,445〜速度で殴る。32GB に収まる範囲なら圧倒的に速い
RTX 508016 GB約 960 GB/s¥267,700〜16GB の上位
RTX 5070 Ti16 GB約 896 GB/s¥206,806〜帯域は 5080 と大差ない
RTX 5060 Ti 16GB16 GB約 448 GB/s¥104,800〜16GB を最も安く手に入れる
RTX 3090(中古)24 GB約 936 GB/s約 17.5〜21.2 万円24GB を最も安く手に入れる。2枚で 48GB。消費電力と設置の手間が大きい
現状維持3.87 GB約 192 GB/s0 円RAM 32GB 後は、4B が 59 tok/s、gpt-oss-20b が 19 tok/s

グラフィックボードの価格はカード単体で、価格.com の最安値(新品)。RTX 3090 の中古はヤフオクの落札(動作品)で、店頭(じゃんぱら)は ¥219,980〜の1点のみだった。 帯域は各社の公称値で、本書では測っていない。

本PCはノートなので、グラフィックボードは差し替えられない。 表の GPU を選ぶと、カード代とは別に、それを載せるデスクトップ本体(CPU・マザーボード・電源・ケース)が要る。 本体一式で届く ZGX・DGX Spark・Mac Studio と比べるときは、その分を足して見る。

この表から読めること

Mac Studio が正面の競合になる

同じ 128GB クラスで、帯域は Mac の方が約2.2倍。同じモデルを動かすなら Mac の方が速い。 価格も Mac の方が約16万円安い。ZGX が優位に立つのは以下の点になる。

逆に推論だけが目的なら、Mac Studio の方が素直に速い可能性が高い。

ZGX を選ぶなら DGX Spark と比べる

DGX Spark は ZGX と同じ GB10・128GB を積む NVIDIA 純正機で、約5万円安い。 中身が同じなので、差は価格・保証・販売経路になる。

RTX 5090 とは用途が分かれる

32GB に収まるモデル(30B 密の Q4、70B の低ビット量子化まで)なら、5090 は ZGX の6倍以上の帯域で圧倒する。 32GB を超えるかどうかが分水嶺で、超えないなら 5090、超えるなら ZGX という切り分けになる。 ただし 5090 はカード単体で約86万円あり、デスクトップ本体を足すと ZGX を上回る。

現状維持という選択肢を最初に潰しておく必要がある。 計画書の結論では、Qwen3-4B が 56.5 tok/s、gemma-4-E4B が 45.2 tok/s で、 日常的な対話とコード生成には足りている。 110万円の判断は「今のモデルで何が不足しているか」を具体化してからで遅くない。

移行時に効いてくる制約

Arm アーキテクチャである

GB10 の CPU 部は Arm(Cortex-X925 / A725)。x86 用のバイナリは動かない。

今使っているもの移行時にどうなるか
llama-b10612-bin-win-cuda-12.4-x64使えないWindows x64 版。Linux arm64 版を取り直す
tools\50_run\*.cmd使えないシェルスクリプトに書き直す
GGUF モデル本体そのまま使えるアーキテクチャ非依存の形式
LM Studio要確認Linux arm64 版の提供状況次第
計画書の知見
(-ngl / --n-cpu-moe の考え方)
前提が変わる統合メモリなので「GPUに何層載せるか」という発想自体が薄れる

OS が変わる

DGX OS 7 は Ubuntu ベース。Windows 環境ではなくなるため、 既存の作業フロー(PowerShell スクリプト、Windows 上の他ツールとの連携)はそのまま持ち込めない。 LAN 越しにサーバとして使い、手元の Windows から API で叩く構成が現実的と思われる。

統合メモリの意味が変わる

現環境では「VRAM 4GB に何を載せるか」が計画の中心だったが、 統合メモリでは CPU と GPU が同じ 128GB を共有する。 計画書 第6章の VRAM 配分の議論は、そのままの形では引き継がれない。 一方で「帯域が速度を決める」という原則は変わらないため、第10章の分析はそのまま通用する。

確認できていない点

判断材料の整理

買う理由になるもの

動機内容
強いMoE を本気で使うQwen3-30B-A3B クラスが Q4 のまま 50〜70 tok/s で動く。現環境は RAM 16GB 時は起動すらできなかった(32GB 後は Q4 のまま動き、Claude Code の読み書きの試験にも合格した。生成速度は未測定)
強い学習・ファインチューニング推論だけなら他の選択肢もあるが、CUDA での学習となると 128GB は大きな武器になる
中長いコンテキスト現在 8192 が上限。統合メモリなら KV キャッシュの制約がほぼ消える
中価格48% オフは大きい。ただし 9月30日までの期間限定で、判断を急がされる構造でもある

買わない理由になるもの

懸念内容
強い今のモデルは速くならない常用している 4B は 56 → 70 tok/s 程度。110万円の対価としては薄い
強い用途が未確定計画書 第9章の時点で「常用する用途」は未定のまま。何に使うかが決まる前の投資になる
中帯域では Mac に劣る推論用途に絞れば Mac Studio の方が約2倍速い。同価格帯
中環境の作り直しArm + Linux。今回組んだ Windows の環境とスクリプトは引き継げない

判断を進めるなら

本書で結論は出さない。判断するとしたら、順序は次のようになる。

  1. 今の環境で足りない場面を具体的に挙げる — 「4B では答えが不正確」「20B を待てない」など。 計画書 第10章の品質評価では、Qwen3-4B の誤答と gemma-4-E4B の正答という差が既に出ている。 E4B の 45 tok/s で足りるなら、そもそも投資の必要がない
  2. 用途が推論だけか、学習も含むかを決める — 推論だけなら Mac Studio が対抗になる
  3. 32GB で足りるかを見極める — 足りるなら RTX 5090 の方が速く、安い
  4. そのうえで 128GB が要るなら、キャンペーン価格は妥当な水準
期限付きの割引は、判断の順序を狂わせやすい。 期間限定という条件は「今決めないと損」という圧力を作るが、 上の1番——今の環境の何が不足しているか——が空欄のままでは、 どの選択肢が正解かを決めようがない。まずそこを埋めるのが先で、 埋まらないなら「今は買わない」が答えになる。

参考資料

価格の出典(2026-09-27 に確認)

関連する自プロジェクトの文書

価格は 2026-09-27 時点の記載に基づく。 ZGX のキャンペーンは 9月30日までで、終了後の価格は記載がない。 グラフィックボードは値動きが大きい。判断の際は必ず上記のページで現在の価格を確認すること。
性能の数値はすべて推定である。 第2章のメモリ帯域(約 273 GB/s)、第3章のモデル別 tok/s、第4章の他機種の帯域は、 いずれも公称スペックからの計算であり実機で測っていない。 現環境の実測値(192 GB/s に対し 56.5 tok/s)から逆算した実効効率7割を、他機種にも当てはめている。